大阪地方裁判所 昭和53年(わ)3662号 判決 1980年12月17日
本店所在地
大阪府枚方市招提田近二丁目三番地
大阪バルブ株式会社
右代表者
大島直哉
本籍
大阪市南区大宝寺町中之丁二一番地
住居
兵庫県西宮市北昭和町一番一一号
会社役員
大島直哉
大正六年一一月二日生
右の者らに対する法人税法違反、会社臨時特別税法違反被告事件について、当裁判所は検察官藤村輝子出席のうえ審理し次のとおり判決する。
主文
被告法人大阪バルブ株式会社を罰金四、〇〇〇万円に、被告人大島直哉を懲役一年に各処する。
被告人大島直哉に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告法人大阪バルブ株式会社及び被告人大島直哉の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告法人大阪バルブ株式会社は、大阪府枚方市招提田近二丁目三番地に本店を置き、船舶用バルブ等の製造及び販売業を営むもの、被告人大島直哉は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人大島直哉は、同会社の業務に関し
第一 法人税を免れようと企て、同会社の昭和四九年七月一日から同五〇年六月三〇日までの事業年度において、その所得金額が一、三七〇、八九八、一一九円で、これに対する法人税額が五四五、四四〇、五〇〇円であったにもかかわらず、売上の一部を除外し、よって得た資金を簿外預金にするなどの行為により、右所得の一部を秘匿したうえ、同五〇年九月一日、大阪府枚方市大垣内町二丁目九番九号所在枚方税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一、〇二六、八九〇、二二七円で、これに対する法人税額が四〇七、八三七、三〇〇円である旨の虚儀の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税一三七、六〇三、二〇〇円を免れ
第二 会社臨時特別税を免れようと企て、同会社の同四九年七月一日から同五〇年六月三〇日までの事業年度における会社臨時特別税額は、三四、七八二、五〇〇円であったにもかかわらず、前記第一記載の方法により所得の一部を秘匿したうえ、同五〇年九月一日、前記枚方税務署において、同税務署長に対し、会社臨時特別税額が二一、〇三二、五〇〇円である旨の虚儀の会社臨時特別税確定申告書を提出し、もって不正の行為により会社臨時特別税一三、七五〇、〇〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)カッコ内の算用数字は検察官請求の証拠目録の番号を示す
一、枚方税務署長の証明書四通(1.2.5.6)
一、登記官作成の被告会社の登記簿謄本(7)
一、被告人の検察官に対する供述調書二通(102 103)及び大蔵事務官の被告人に対する質問てん末書五通(97ないし101)
一、証人元木進、同花田十郎、同野村英郎、同小林喜継の当公判廷における各供述
一、花田十郎の検察官に対する供述調書(49但し、五枚目表一一行目から六枚目表四行目までを除く)
一、大蔵事務官作成の査察官調査書二二通(10ないし21 23ないし30 116 117)
一、左記の者作成の各確認書
向山辰男(31)、八鳥千年七通(32 35ないし39 62に添付されていたもの)、三宅清二通(33 34)、奥野一二(40)、奥山健三(41)、野村英郎三通(56に添付されていたもの二通と58に添付されていたもの一通)辻本宣治(155)
一、大蔵事務官の左記の者に対する各質問てん末書
花田十郎五通(42の問答一ないし九、44 46の問答一〇ないし一九、47の問答一三ないし一七、48)、八鳥千年九通(61ないし69、但し、62は添付された確認書を切り離したもの)、大迫政夫四通(70.71.73.74)、林田義一(75)、辻本宣治二通(76 77)、荒賀千栄子(79)、深田幹夫二通(80.81)、大塚元治郎(82)、維摩保幸(83)、水島一男(84)、辻敏夫(85)、細川一生(86)、高森良平(87)、岡野弘行二通(89 90)、木村博一(91)、横山勉(93)、上田進(94)
一、押収してある22期総勘定元帳(負債勘定)一綴(106昭和五四年押第二九五号の一)、22期総勘定元帳(収支勘定)一綴(107前同号の二)、議事録一綴(108前同号の三)、49 50 51年各期一時金明細(封筒共)一綴(109前同号の四)元帳(当座銀行預金49/7~50/6)一綴(110前同号の五)元帳(経費49/7~50/6)一綴(111前同号の六)、期棚卸表(袋入)一綴(118前同号の七)受注台帳(日立)二綴(139 141前同号の八、九)、仕様変更連絡ノート(49 12 2~50 6 24)一冊(144前同号の一〇)、昭和五一年六月末日現在棚卸高明細表一綴(158前同号の一一)
(法令の適用)
被告法人につき、法人税法一六四条一項、一五九条、会社臨時特別税法二七条二二条
被告人大島直哉につき、法人税法一五九条、会社臨時特別税法二二条
右両名につき、それぞれ包括一罪として犯情の重い法人税法違反の罪の刑で処断することとし、被告人大島直哉につき懲役刑選択
被告人大島直哉の刑の執行猶予につき、刑法二五条一項
訴訟費用の負担につき、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条
(弁護人の主張に対する判断)
一、弁護人は、まず、賃金手当の犯則額一〇〇、三一九、八〇〇円及び給料手当の犯則額二五、四四九、二〇〇円はいずれも全額損金として認められるべきであり、かりにそれが容れられないとしても、少なくとも、そのうち賃金手当四九、五九五、〇〇〇円、給料手当一四、二九八、三〇〇円は損金として認められるべきであると主張する。
そこで検討するのに、法人税法上、損益の年度帰属については、いわゆる権利確定主義によるのが相当であると解されるところ、右賃金手当及び給料手当の犯則額合計一二五、七六九、〇〇〇円は、公表帳簿上は昭和五〇年六月二六日付で右各手当(夏季賞与)として計上されているけれども、これが犯則事業年度末たる同月二〇日までに債務として確定していなかったことは証拠上明らかである。すなわち、押収にかかる49 50 51年各期一時金明細(封筒共)一綴、その他関係証拠によると、被告会社における昭和五〇年の従業員に対する夏季賞与(対象期間昭和四九年一一月二一日から同五〇年六月二〇日まで)は、同年七月一五日合計六三、八九三、三〇〇円(うち賃金手当に相当するもの四九、五九五、〇〇〇円、給料手当に相当するもの一四、二九八、三〇〇円)が支給されたことが認められ、さらに、押収にかかる議事録一綴によると、右夏季賞与に関する会社側と労働組合側との団体交渉が妥決したのは同年七月三日であり、その内容は、勤続一年以上の社員で一人平均本給の四・〇五カ月分、四五五、四七八円(その内訳は、本給比二・四三か月、考課査定一・六二か月、一律一五、三〇〇円)ということであったこと、同年七月一日の団体交渉においては、会社側の回答は一人平均三・九か月、四三三、八八三円であり、組合側はさらに高額を要求し、会社側はそれに応じられないと答えて続行となり、翌二日の団体交渉においては、組合側はまず一人平均四八〇、〇〇〇円を要求したが、次いで四六〇、〇〇〇円に譲歩し、会社側は最終回答として前記妥結内容を呈示し、翌三日組合側がこれを受け入れて交渉が妥結したことが認められる。従って犯則事業年度の公表帳簿上賃金手当、給料手当として計上されている前記一二五、七六九、〇〇〇円のうち、翌期に入って七月一五日支給された前記六三、八九三、三〇〇円に相当する部分についてみても、犯則事業年度の終了の日までには支給額は決まっておらず、債務として確定していなかったものといわざるをえない。そして、押収にかかる元帳(経費)49/7~50/6一綴、元帳(当座銀行預金)49/7~50/6一綴、22期総勘定元張(負債勘定)一綴、同(収支勘定)一綴前記49 50 51年各期一時金明細一綴ならびに花田十郎の検察官に対する供述調書、同人に対する大蔵事務官の昭和五二年五月一三日付(一〇項ないし一九項)、同年七月二六日付(一三項ないし一九項)、同年八月五日付各質問てん末書、被告人の検察官に対する供述調書、被告人に対する大蔵事務官の同年二月一〇日付、同年七月二八日付各質問てん末書、奥野一二作成の確認書、大迫政夫に対する大蔵事務官の同年四月一九日付質問てん末書によると、被告会社においては、犯則事業年度は会社創立以来の高利益があり、かつ、期末に近づくにつれ不況の兆しがみられたので、税負担を軽くし、裏資金を備蓄するため、大がかりな利益操作を行うことにし、その一環として、夏季賞与の支給額も決まっておらない当該事業年度中に、ほぼ従前の夏季賞与と年末賞与の合計額に匹敵する金額を夏季賞与として架空計上したこと、さらに、それを仮装する手段として源泉所得税、失業保険料に相当する金額をそれぞれ所轄官署に納付し、これを差引いた各手取額相当の金額を、従業員本人にはまったく知らせず、一方的に、六月二六日、三井銀行難波支店に各従業員名義の普通預金口座を設けて預け入れたこと、ならびに、被告会社においては、従前毎期末公表帳簿上賞与引当金を計上していたが、犯則事業年度においては、前記のような事情からとくに多額の賞与の計上を企図したため、賞与引当金でまかなうことができず、前記のごとく賞与の架空計上をするに至ったが、取引先に対する信用の面を慮って期末に賞与引当金六、〇〇〇万円を賃金手当五、〇〇〇万円と給料手当一、〇〇〇万円に割り振って計上し、税務上はこれを自己否認したことの各事実が認められるのであって、以上の点に徴しても弁護人の主張が採用できないことは明らかである。
二、次に、弁護人は、売上原価中の期末材料棚卸高に関し、材料のうち棚卸除外をしたのは鋳鋼のみであるところ、検察官は、昭和五一年六月期末の実地棚卸表に基づき、同表中の鋳鋼の弁箱のうちFG、FL、FSの三種について一年間遡って受払計算をし、昭和五〇年六月期末の右三種の弁箱の棚卸高を算出し、これを右棚卸表における鋳鋼の弁箱中右三種の弁箱の占める割合(〇・九二一)で除して同期末の弁箱全部の棚卸高を推計し、さらに、同金額を右棚卸表における鋳鋼中弁箱の占める割合(〇・六八)で除して同期末の鋳鋼全部の棚卸高を推計しているが、右棚卸表における右三種の弁箱と弁蓋の各個数は七〇三八個対七八三六個であり、在庫の弁箱と弁蓋の個数は本来一対一であるべきであるから、右の個数の比率は異常な状態といわなければならず、これを一対一の正常な状態に引直して鋳鋼中弁箱の占める割合を算出すると〇・七〇三となるから、この割合を前記推計計算に用いるべきであり、検察官主張の割合である〇・六八及びそれを用いてなした推計の結果は誤りである、と主張する。
しかしながら、押収にかかる五一年六月期棚卸表(袋入り、符号七)の内容を子細に検討すると、弁箱と弁蓋が同一の品種、規格のものが対になっているものの割合はさして高くなく、弁箱、弁蓋の各品名、数量単価からみた在庫状態(相当単価の異なる各種弁箱、弁蓋がはなはだ不均衡な数量で混在している)に徴すれば、弁箱と弁蓋の個数が七〇三八個対七八三六個(正しくは七四二一個対八二二三個)であることをもって異常な在庫状態であるとはいえず、このような在庫状態のもとでは、むしろ検察官主張のように直截的に鋳鋼全体のうち弁箱の占める割合を算出して推計に用いる方がより合理的であるというべきである。その他検察官主張の推計計算の過程に不合理な点はなく、弁護人の該主張は採用できない。
三、さらに、弁護人は棚卸資産中鋳鋼材の一部がスクラップ化していたとして、その評価減を主張するけれども、実質的にみて、棚卸資産の評価損の計上が許される場合として法人税法施行令六八条一号が定めるような事実は当時存在しなかったものと認められるうえ、資産の評価額損の損金算入に当たっては損金経理をすることが必要であるところ(法人税法三三条二項)、被告会社の法人税確定申告書の謄本及び大蔵事務官の被告人大島直哉に対する昭和五二年八月三日付質問てん末書等関係各証拠によると、被告会社が棚卸資産の評価損を公表計上していないことは明らかであるから、弁護人の右主張は採用できない。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 青木暢茂)